最近、通勤電車の中で吊り革に身を任せていたのですが、貧血のためか立ちくらみを起こし、糸が切れた傀儡人形のごとくしゃがみ込んでしまいました。視界がキューっと狭くなったのを覚えています。
目の前の席には、スマホで電子書籍を読んでいるサラリーマン。その人を含めて、私に声をかけてくれた人はひとりもいませんでした。東京は冷たい街だな、としみじみ思いました。
私が西船橋から茅場町までの間とっていた姿勢は、片膝と片手を床についた格好です。ターミネーター1の導入をイメージされるとわかりやすいかもです。シュワルツネガーとの違いといえば、私の場合は服を着ていたという点のみです。
今日のテーマは服です。
私の着ているもの、身につけているものに目を向けてみます。まずは首にかけた社員証ストラップ。誰が言ったか、会社の犬に成り下がった私に相応しい首輪といえるものです。
次にイヤホン。あのちゃんがプロモーションモデルを担当したAVIOTの赤いモデルです。売り文句は「小さくまとまって、何が悪い。」です。子供の頃は古代中国の大将軍に憧れ、漫画「花の慶次」を道徳の教科書として育ち、今は耳掃除が人生至上の喜びとなったヒラ社員の私にとって、全くおあつらえ向きだなと思って購入したものです。
次に赤いメガネケース。私はよく職場で物を失くす、総務部を悩ませることにかけては他の追随を許さない男です。会社でメガネケースを一度失くした時、預かってくださった方から「持ち主が見つかって良かったです〜。素敵なメガネケースですね。」と言って頂いたことがあります。調子に乗った私は、相手の仕事を増やしたことなんてすっかり忘れて「はい!小物は赤いものを選ぶようにしています。赤いケースは僕専用。このメガネも通常の三倍、見えやすくなります。」と言ってしまいました。およそ社会人の立ち回りではありません。仕方がないのです。坊やだからさ。
でも結局のところ、小手先のオシャレなんて何の意味もありません。墓場まで持っていくことができるのはこの身ひとつなのです。全裸が一番のオシャレと言える体を目指す必要があります。
筋トレの話に繋げると思いきや、私はアンチ筋トレ派です。本来持つ必要のないものを持ち上げたり、引っ張る必要の無いものを引っ張ったりして筋肥大を成せたところで、自然の摂理に反すると私は考えます。人間、収束するべき体重があると思っています。
しかし皮肉にも、筋トレを頑なに拒む私が、この世でただひとり真の筋トレ方法を知っているのです。それは「人間暖房」です。
まず、服を脱いで素っ裸になります。カーテンを全開にします。暖房の電源を切ってください。ここまで実践したところで、今あなたはさぞ寒い思いをしているでしょう。あなたが風邪をひかずに今夜を乗り切るには、一心不乱にバーピージャンプに取り組むしかありません。自衛隊式腕立て伏せに挑むしかありません。そうすることで、あなたの体内の物質という物質が結合と分解を繰り返すことで生み出される化学エネルギーが、体表を超える頃には熱エネルギーとして発散され、部屋の温度が上昇し始めるのです。今、あなたこそが暖房となったのです。
こうすれば、エアコンにかかる電気代も抑えられます。ジムの月謝を払う必要もなくなります。無類のタフネスを身につけて、何も心配することなく聖母マリアのおわすところへ向かうことができます。失うものといえば世間体くらいのものでしょうか。肉体的な死を迎える前に、社会的な死を遂げることができます。人生のブレーカーが落ちる音が聞こえてきます。
もっとも、私はこんな世間様に恥を晒すような真似はしたことがありません。これくらいエネルギッシュであれば、電車で貧血を起こすことなんて無いと思います。私に命を吹き込むのは電力エネルギーではなく、傀儡師の指先に繋がった糸なのです。
今日ご紹介する昭和ポップスは谷村新司「神のマリオネット」です。
この曲について話すことは特にありません。