私が昭和ポップスに興味を持ったきっかけ

 昭和ポップスに興味を持つきっかけは、人によって様々です。

 以前、昭和ポップス倶楽部の運営メンバーがひとり、さにー御大がこのトピックについて整理されていました。動画配信サービスが台頭する昨今、統計で見るとテレビの影響が依然強いことがわかります。私もご多分に漏れず、BSのNHKで放送されていた「音楽のある風景」という通販番組で中島みゆきに出会って以来、昭和の名曲を少しずつ聴き始めた人間です。

 ごめんなさい。上の理由は、倶楽部のオンライン交流会で自己紹介する場合や、居酒屋でリアルタイム世代に説明するときに相手を困らせないための、いわば外行きのものです。隠しておりましたが、本当は別のきっかけがあります。今日はそれを説明させてください。

 時は約1800年前、西暦で言うと180年ごろまでさかのぼります。古代中国、後漢末期のとある田舎に私は生をうけました。ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナです。私は県尉(地方の役人)になることを志し、韓非子や春秋左氏伝の勉強のかたわら草鞋を編んで生計を立てていました。ある日、自宅近くの山に登り、山菜を取っておりました。これは食えるな、これは食えないな、これは大叔父が食えると教えてくれたな。そんなことを考えながら背中の籠に放り投げていると、目の前の木陰から光が差し込んでいることに気づきました。近づいてみると突然、仙人が現れたのです。

 七福神でいうと、福禄寿のような見てくれでした。しかも足元をよく見ると、少し浮いています。周りと打ち解けられていない、と言う意味ではなく、物理的に浮いています。ドラえもんは実は3cm浮いている、という設定がありますが、この仙人は筋斗雲のような雲に乗っている様子でした。ドラゴンボールの悟空が乗っている、あれです。

 背中からは後光が差しています。後光と言っても、我々がイメージするそれとは異なります。菩薩にかかる、輪光ではありません。不動明王にかかる、火焔光でもありません。聖母子像にかかる、放射光でもありません。

 虹色なのです。

 虹は、太陽の光が空気中の水滴に屈折して入り、水滴の中で反射して再び屈折して、水滴から出ていくことで発生する現象です。光は波長によって屈折率が異なるので、結果、我々の眼前にカラフルな姿となって出現するのです。つまり、虹の正体は光と言えるので、そういう意味で後光といえます。虹色の後光。イメージをするのであれば、仏教絵画や教会のステンドグラスアートではなく、Magical Mystery Tourのジャケットに記載されたタイトルが最も正確です。仙人にしては、ファンキーというか、アバンギャルドな登場でした。

 呆気に取られていると、仙人は私にこう語りかけます。「昭和ポップスを、昭和ポップスを聴くのだ」と。そうつぶやくと、仙人は小脇に抱えた一枚のレコードを私に放り投げ、一羽の鶴となって天に飛び立っていったのです。

 当時、アナログレコードはおろか、エジソンがフォノグラフを発明するよりも遥か昔の時代です。音波の記録メカニズムで言えばフーリエ変換、カートリッジの開発で言えばファラデーによる電磁誘導の発見すら、気が遠くなるほど未来の話なのです。

 そんな時代に仙人が私に授けたのは、坂本龍一「未来派野郎」でした。仙人にしては、アバンギャルドというか、チャラい選曲に感じました。なんか下北沢の古着屋にたむろするサブカル臭い若者みたいなセンスだな、そんな感想を抱いたのを覚えています。私は当時の陳留(現在の河南省開封市)のどこにでもいる、立身出世を夢見て日々邁進する若者でしたが、なぜか倭の国には下北という街があることを知っていました。

 以来私は、試験勉強そっちのけでレコードを聴きあさりました。若者が音楽にうつつを抜かして学生の本分を忘れるのは、今も昔も変わりません。こういっちゃなんですが、倶楽部メンバーの皆さんは昭和ポップスを聴くようになって、たかだか10年、20年でしょう。私は1800年間、聴き続けているのです。桁がふたつほど違うんだな。その割には、YMOの楽曲といえばライディーンくらいしか思いつかないのはご愛敬と言ったところでしょう。長安(現在の陝西省西安市)の大商家(現在のディスクユニオンみたいなもん)まで足を運んだんですが、レコードが売ってなかったんですよね。

 以上です。南華老仙から太平道術の書を授かった張角が、中国史上初の宗教大乱「黄巾の乱」を起こすのは少し先のお話。時代を先どってレコードを聴き始めた私こそが、未来派野郎だったのかもしれません。さにーさんの記事にある、昭和ポップスにハマったきっかけを整理した円グラフの中に、ぜひとも針ほどの幅で「昭和ポップス仙人の啓示を受けた」を入れていただきたいです。

代表のかなえ氏から授かりました、カタ坊という名前で参加しております
死ぬ前に、ことわざひとつ、生み出したいです

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