昭和ポップスはバーチャル空間である 松田聖子の「星空のドライブ」

・僕が思う昭和ポップスの魅力

 ・昭和ポップスと現代の曲に対する考え方

 「昭和ポップスの魅力って何ですか?」

 自分と同年代、もしくは若い年代の方々からこのように問われることは少なくないだろう。そして、どう答えるか迷うこともあるだろう。僕もその1人だ。

 昭和ポップスが好きな僕が言うのも変かもしれないが、様々な音楽が溢れていて、Apple MusicやSpotifyといったサブスクリプションの音楽配信サービスで日本、世界中の流行りの音楽を簡単に楽しむことができるのに、過去の音楽を深掘りして楽しむのは、マイノリティだと思う。

 ビジュアルにしても現在のアイドルやアーティストも魅力的だし、音楽性だって現在のアーティストもカッコよく、耳に刺さるような楽曲を世に出している。そのあたりに関しては、昭和ポップスと優劣つけ難い。いや、優劣をつける必要がないと言った方が良いかもしれない。全く別個の優れたモノと考えた方が良いかもしれない。

 ・昭和ポップスの魅力は“可視化”できること

   そんな僕が考える昭和ポップスの魅力は“可視化”できることである。

 感情や心情といった、内面的で露わにすることができない、画でイメージしにくいことをあらゆる言葉を使って言語化している楽曲は、昭和ポップスでも現在の楽曲でも沢山存在する。最近の楽曲だと西野カナの「トリセツ」なんかが良い例だと思う。

 それに対して、情景や風景といった外面的で露わになっている、画でイメージしやすい楽曲が多いのが昭和ポップスの魅力であると思う。そこには、TV番組での映えるセットという視覚的に魅せる力も作用しているのかもしれないが、アレンジと歌詞が連動していることが大きな要因になっていると僕は考える。

・“可視化”されている昭和ポップス 松田聖子「星空のドライブ」

 ・松田聖子「星空のドライブ」とは?

  可視化されている昭和ポップスの代表的な1曲が、松田聖子の「星空のドライブ」(作曲:財津和夫 作詞:松本隆 編曲:大村雅朗)である。

  この曲は、1982(昭和57)年11月10日に発売された、松田聖子の通算6枚目のオリジナルアルバム『Candy』のA面の1曲目に収録されている。

 

 

青いワーゲン ホロを外して
夜景にビュンビュン飛ばしてるのね
カッコいいのは わかるけど
まだまだ 夏じゃない
風邪をひいたら あなたのせいよ
そんな寒けりゃ そばにおいでよ
ハハーン あなたの計算も
意外と 単純ね

星の降る街を
飛んでいるみたい
負けたわあなたの
肩へともたれて
ハートはこんなに熱い


好きと小声でつぶやいたのに
何て言ったの聞き取れないよ
別に何でもないわって
ニッコリ 謎めいて

月を横切って
飛んでいるみたい
負けたわあなたの
鼓動が聞こえる
私をさらっていいわ

君の横顔 綺麗だねって
ほめてくれれば うれしいけれど
前を見ててよ ほらカーブ
つきあいきれないわ

・曲の考察

 イントロの8小節で車に乗車し、エンジンを掛けて、発進するところまでイメージが出来て、“青いワーゲン〜”というように歌が始まる。bpm140くらいのテンポの8ビート、ベースのルート引きで曲が進んでいく。テンポ感は首都高を120〜140km/hで走行しているイメージである。男性がハンドルを握り、助手席には女性が乗っている。さらに、シンセサイザーが夜空に浮かぶ星、もしくはビルの灯りかもしれない。

 イントロからAメロまでの48小節で、車に乗車、エンジンを掛けて発進、夜の首都高をビュンビュン飛ばしている描写が頭に浮かんで来る。そして、Bメロからはまた新しい世界にワープしていく…

 Bメロはテンポがスローダウンして、“星の降る街を〜”と始まっていく。このスローダウンが、飛行機に乗っている時に実際の速度に対して、体感速度を感じない描写、夜空の中にループして、本当に“飛んでいるみたい”に感じる。また、Bメロのアウトロの8小節の弦楽器のフレーズは空から地上に降下していくようである。

 イントロ〜Aメロは地上での話に対して、Bメロはややスローダウンして落ち着かせると思いきや、高い所に登ってから一気に地上へ急降下しているイメージ。まるで、首都高をグルグル周っているようである。

・昭和ポップスはバーチャル空間である

  曲を聴きながら、女の子を助手席に乗せて夜に首都高、六本木とか三宅坂あたりをドライブデートをしている画が頭に浮かんでくる。

 今回紹介した「星空のドライブ」のように、昭和ポップスの中には聴いていると、その世界観に引き込まれ、頭の中にその画が頭に浮かび、あたかも自分がその世界にいるように感じる曲が何曲もある。

 本当はその空間にはいない、同じような境遇にはないのに、そのシチュエーションを感じてしまう。風であったり、気温や気候であったり、匂いであったり…それは、まさにバーチャル空間のようである。

 今後も、機会があれば様々な形で「昭和ポップスは、こうだよ!」、「こんな感じの楽しみ方があるよ。」というのを僕なりの視点で発信できればと思う。バーチャル空間のような曲もまだまだ沢山ある。また、機会があればご紹介していきたい。

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