昭和ポップスとめぐる世界の都市~北米大陸編~

 こんにちは!昭和ポップス倶楽部のカタ坊です。本日は、海外の国をテーマにした昭和ポップスについてお話をさせてください。最近の楽曲にはあまり見られませんが、昭和の頃は具体的な国、都市の名前が曲名や歌詞に出てくる作品が多くみられます。音楽を鑑賞する一つの観点として面白いかなと思いまして。せっかくなので、飛行機や鉄道を乗り継ぎながら世界を一周するイメージで紹介できればと思います。

 出発は東京から。山崎ハコ「幻想旅行」とともに、いざ出発!

アメリカ ニューオリンズ

私が着いたのは ニューオリンズの
朝日楼という名の 女郎屋だった

 まず最初に到着したのはニューオリンズです。アメリカ南部ルイジアナ州の港町。音楽史の観点で言えばジャズ発祥の街として有名ですよね。通りから聞こえるラグタイムとブルース、歓楽と退廃が共存する夜の気配。この「朝日の当たる家」はアメリカの伝統的なフォークソング「The House of the Rising Sun」に、浅川マキが訳をあてたものです。原詩も訳詞もともに、娼婦が自身の半生を懺悔する歌になっています。「こんなになったらおしまいだってね」といったやけくそ感、やさぐれた感じがいいですよね。

 私はこの曲を浅川マキとちあきなおみで知ったのですが、調べてみるといろんな方が歌われています。今回は新宿コマ劇場で行われた「第一回 百恵ちゃん祭り」から、山口百恵のバージョンをご紹介させていただきました。

アメリカ ラスベガス

ちっぽけな快楽に 使いきる生涯
ラスベガスタイフーン
それでも俺は 俺は砂漠より乾いている

 ニューオリンズからルート66を通ってラスベガスへ。アメリカンニューシネマの名作「イージー・ライダー」は、ラスベガスで違法に入手した大金をハーレーのタンク内に隠してニューオリンズへと旅に出る話ですが、我々は逆の道順をたどります。ラスベガスといえば、砂漠のど真ん中に人工的につくられたカジノの街。音楽の聖地からテキサス、アリゾナの荒野を突っ切り、消費・快楽・虚構の極致へ向かうのも乙ですね。

 ラスベガスタイフーンは安全地帯の三枚目のシングル曲です。この曲の主人公は目先の快楽におぼれているようです。それでいて、そのみすぼらしくてちっぽけな人生のニヒリズムを客観視したような雰囲気です。そんな自分の乾いたありようを指して、ベガスを囲む砂漠で喩えるような歌詞になっています。いやいや、しっかりしろ!真面目に生きろ!

アメリカ サンフランシスコ

サンフランシスコの青い雨に あの人は消えて
サンフランシスコのうるんだ雨に あの人はとけて

 欲望の町ラスベガスを後にし、次に向かうのは西海岸の港町サンフランシスコです。名所でいうと、霧にいだかれたゴールデンゲートブリッジや、ツインピークスからのきらめく夜景などがあります。確証がないので取り上げませんでしたが、泰葉「フライデイ・チャイナタウン」もひょっとしたらサンフランシスコが舞台かもしれません。ここは文化と多様性の町。アメリカ最古で最大級の中華街があります。人外(言葉が悪すぎる!)と肩がぶつかったのはサンフランシスコだったかもですね。

 アメリカの都市を題材にした昭和歌謡の中でも、サンフランシスコの登場はわりあい多いのかな、という印象を受けました。「その時代の流行り」みたいな都市ってありますよね。戦後日本でいえば函館や長崎、少し時代が進んで横須賀とか横浜とか。港町は異国情緒にあふれ、人が出入りする場所ということでドラマが生まれやすいかもしれないですね。甲斐バンド「異邦人の夜(シスコ・ナイト)」もサンフランシスコを舞台としています。地理的キーワードは「霧」です。海に面した場所では朝霧が生まれやすいので、港町を題材にした歌は霧にかかることが多い印象です。自然現象であると同時に、失恋の感情と重なり合う詩的な舞台装置であると言えるでしょう(我ながらいいこと言った)。

カナダ レイク・ルイーズ

森と泉にかこまれて 静かに眠るブルー・シャトウ
あなたが僕を待っている 暗くて淋しいブルー・シャトウ

 アメリカ合衆国に別れを告げ、大自然と静寂の世界レイク・ルイーズに向かいます。ジャッキー吉川とブルー・コメッツの代表曲「ブルー・シャトウ」は具体的な地名が出てきませんが、制作に至る経緯から、カナダはアルバータ州にあるレイク・ルイーズの湖畔が舞台であることと思われます。シャトウはフランス語で「王族や貴族の住居」を表す言葉とのこと。要は、ほとりにあるホテルの名前をあいまいにして表現しているのだと思います。

 レイクルイーズを囲んだ一帯はバンフ国立公園というのだそうです。カナディアンロッキーとヴィクトリア氷河の絶景。この歌詞で描写される風景は夜だと思うのですが、暗くて寂しい雰囲気を感じているというのがすごいですよね。私がこのホテルに一泊したら、きっと旅先のテンションでひたすら水切りをしていると思います。他の宿泊客からしたら最悪でしょうね。こんないいロケーションなのに、落ち着きのない東洋人がいたら。

カナダ ナイアガラの滝

霧に覆われたナイアガラの月
佇む二人 漂うシルエット

 ブルー・シャトウで一泊したのち、世話しないですがカルガリー空港に戻ります。そのままカナダ大陸を横断する壮大なルートをたどり、ナイアガラ・フォールに向かいます。西部ロッキーの静寂から、東部ナイアガラの轟音へ。自然の「静」と「動」を感じることができるでしょう。

 旅のおともは、大滝詠一のアルバム「NIAGARA MOON」から「ナイアガラ・ムーン」と「ナイアガラ・ムーンがまた輝けば」の二曲。面白いアルバムですよね、同じ思想で作られた歌で、イントロとエンディングを挟むという構成になっています。大滝詠一が主宰したレコードレーベルもナイアガラ・レーベル。ご自身の名字「大滝」をもじって、ナイアガラの名前をよく使われたそうな。トリビアで、イントロで流れる滝の音は、当時制作を手伝っていた山下達郎が白糸の滝で録音したものだそうです。

カナダ プリンスエドワード島

赤毛のアン お茶目でやさしい女の子
いつの日かあなたも
愛する人の胸に落ちて眠るでしょう

 ナイアガラの大瀑布に圧倒された後に向かいますのは、赤毛のアンの聖地プリンスエドワード島です。みなしごで、孤児院を転々とした11才の少女アン・シャーリー。劇中では、引き取り手の家に向かう並木道には「喜びの白路」、近くの池には「かがやく鏡の池」など、彼女の素晴らしい想像力で無名の風景のひとつひとつに名前を付けいてた姿が印象的です。プリンスエドワード島、個人的に世界で一番行ってみたい街なんですが、きっと素敵な場所なんだろうなあ。。。

 歌詞の中で具体的に「赤毛のアン」と書かれた作品があり、それを太田裕美が歌っていたという事実、びっくりしました。作詞は岡田冨美子さん。英文科を卒業された方とのこと。きっと学生時代にモンゴメリーの原著を読まれていたのでしょうね。関係ないのですが、私はカラオケで自分が歌うのが大の苦手なんですが、どうしても歌わなければいけなくなった時のレパートリーのひとつにずうとるび「みかん色の恋」があります。こちらも岡田冨美子さんの作品。ちゅきちゅきらぶりーちゃんですね。緊急事態の折、いつもお世話になっています。

 思えば遠くに来たものです。東京からカナダの離島まで、いったい何キロメートルを移動したのでしょうか。本稿で世界を一周するつもりで、寄り道が増えるのはヨーロッパだろうなと思っていたんですが、北米大陸を抜けることすらできませんでした。執筆中に急遽、サブタイトル「~北米大陸~」と付けた次第です。次回は今一度トロントに戻り、ロンドンを玄関口としてヨーロッパの旅に出れたらな、と思います。

 長い記事になりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!それでは、また次の旅でお会いしましょう、さようなら~!

ひどいわ!一番大切な曲を忘れているなんて。あんまりだわ。

プリンスエドワード島、グリーンゲイブルズを舞台にした曲といえば、これは外せないじゃない。

アン

ひずめの音……馬車がね、ゆるやかな丘を越えて、わたしを迎えに来るのよ。夢じゃないの、ほんとうの物語の始まり――この歌が、まるであの日の空気みたいに、よみがえらせてくれるの。

アン

希望という名の馬車に乗って、新しい家族、新しい人生、そして想像力と出会った――そんな瞬間を、この歌はずっと見守っていてくれたのよ。

 アン・シャーリーが目の前にいる。夢のようです。長旅で疲れて幻覚を見ているのでしょうか。山崎ハコ「幻想旅行」でこの旅は始まりましたが、本当に幻を見ているかのようです。もうここで世界一周をすることはあきらめて、夢か現か、アンの友達として余生を送るのも悪くない気がしてきました。

アン

まあ、そんなこと言わないで! “余生”なんて、まだずっと先の話よ。ねえ、わたしを――世界旅行のおともに連れていってくれない?

アン

だって、素敵じゃない? 知らない国の朝に目覚めて、知らない言葉で“おはよう”って言われるの。わたし、それを空想だけで終わらせたくないのよ――本当に、行ってみたいの!

アン

たとえば、風が歌う砂漠とか、オーロラが踊る夜の空とか、
お城みたいな図書館とか、カカオの森でチョコレートに埋もれる夢みたいな場所とか――。

カタボウ

アン、本当にいいのかい。きっと長旅になると思うよ。それに今回のテーマは昭和ポップス、君が生きていた時代のもっと未来の、極東の国で局所的に流行っていた歌を紹介するのが目的なんだよ。昭和と言われても、なんのこったかわからないだろう。

アン

まあ……“ショウワポップス”?それって、なんだか魔法の呪文みたいな響きじゃない?名前だけでもう、胸の奥がわくわくしてきたわ!

アン

未来の時代? 極東の国? 知らない場所、知らない音楽、知らない言葉――。でも、あなたがそれを“紹介したい”って思ってるなら、それだけで、きっとすてきな旅になるって思えるの。

アン

だって、どんな時代にも、どんな場所にも、誰かの心を震わせた歌があるんでしょう?そのメロディを、わたしの知らない景色の中で一緒に聴けるなんて、空想よりもっと素敵なことじゃない?

アン

わたし、きっと気に入ると思うの。“ショウワ”っていう時代が、どんな色をしてたのか、どんな恋や涙や夢を歌ってたのか――。
一緒に探しに行きましょう?

カタボウ

おお、なんて希望に満ち溢れた考え方をするのだろう。アンはいつだって私に勇気を与えてくれる。

カタボウ

わかった。マシュウとマリラにはよろしく伝えておいてほしい。アンをしばらくの間、お借りしますって。野垂れ死んだところで、本当のふるさとなのだ。

アン

ええ!行きましょう!

 次回は、アンとともにヨーロッパに向かいます。彼女に、ヨーロッパやアジアの素晴らしい風景を見せてやりたい、あわよくば昭和ポップスの沼に引きずり込みたい。最終的には、極東の国ジパングには「麺屋武蔵」という叉焼がうまいラーメン屋があるという思い出を作ってもらって、グリーンゲイブルズに送ってやりたいと考えています。よろしくお願いします。

今年のテーマは、スカッと生きる、です。
最近の悩みは、倫理観が欠けていると言われることが増えたことです。

1件のコメント

  1. 北米編、とても面白かったです!

    テーマがとても魅力的だったので、最後までついつい読んでしまいました。

    なんて知的で、豊かな想像力が溢れるブログなんだろう、とワクワクしながら読みました。
    タイトルや歌詞だけでは分からない曲まで紹介されているのがさすがです。
    乗り換えもなんだかリアルで楽しい。

    ただ、最後にやっぱりカオスがチラ見えするのが良いです笑

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