平成生まれ昭和育ちへのインタビュー【歌声喫茶に魅せられて…ひろせめぐみさん篇】

昭和の音楽が好きな若者は、年を追うごとに増えています。SNS上には中学生や高校生がいることも、珍しくありません。でも、いったい彼らはどうして昭和の音楽を好きになったのか?そのきっかけや思いをインタビューしていく、昭和ポップス倶楽部によるシリーズ「平成生まれ昭和育ちへのインタビュー」

平成生まれ昭和育ちへのインタビュー、第3回である今回は、1954年から実に65年以上続く老舗歌声喫茶「ともしび」で働くピアニスト・ひろせめぐみさんにお話を伺いました。

(平成生まれの昭和好きのためのコミュニティ・昭和ポップス倶楽部の代表・かなえ氏がインタビュアーを務めています。)

ひろせめぐみさんとはどんな方なのか

かなえ氏

まずは、めぐみさんが昭和歌謡に目覚めたきっかけを聞かせてください。

ひろせめぐみ

きっかけは11年前、学生の時でした。今働いている、「歌声喫茶ともしび」にお客としてお邪魔したことです。当時の私は、福祉の勉強をしていて、主に音楽療法を専攻していたので、勉強のために友人と一緒にともしびに行きました。
お邪魔してびっくりしたんですが、そこでは昭和に愛された名曲をお客様全員が本当に楽しんで歌っていたんですよ。
その様子をみて、「昭和の名曲の何が人々を魅了しているのか」がすごく知りたくて、ともしびに通い始めたのが昭和歌謡に目覚めたきっかけでした。

かなえ氏

ともしびさんにはそこから通い始めたんですね。何年前くらいのお話ですか?

ひろせめぐみ

ともしびで働き始めて6年が経過するのですが、通い始めたのが11年前。なのでお客としては5年通っているんです。
通い始めた頃こそ友達と行っていたんですが、「ここはすごいぞ…!」と思い始めてからは徐々にひとりで通い始めました。それまでは主にクラシックを聴いていて、昭和歌謡は全く聴いてきませんでした。

かなえ氏

結構通っていらっしゃるんですね。しかもひとりで!
先ほどおっしゃっていたお客さんが楽しそうに歌う姿に、なにか感じるものがあったのでしょうか。

ひろせめぐみ

そうですね、青春時代をともに過ごしてきた歌だからこそ、凄い熱量があるんですよね。当時は娯楽が少なかった時代だったから、ラジオで聴いた時の思い出が強く残っているんですね。
しかし、時が経つに連れ、テレビが娯楽の主流になっていくと、そのテレビで、「みんながひとつになった時代があったんだなぁ」と感じます。それは私たちのような若い世代には経験することが少なかったと思うんです。
だから、テレビを通じて歌の力が何倍にも膨らんでいるのが、ともしびにいると目に見えてわかります。

かなえ氏

ともしびに通い始めた頃に、ひろせさん自身がお客さまの楽しそうな姿を見て印象に残った楽曲はありますか?

ひろせめぐみ

はい、あります。やはりみんなの心を引き寄せる楽曲ってあるんですよね。
例えば、舟木一夫さんの「高校三年生」の破壊力は凄かったです。皆さん、ものすごいパワーを込めて歌うので本当に愛されてきた曲なんだと感じます。他には、「みかんの花咲く丘」とかですね。

かなえ氏

へえ、そうなのですね!一度聴いてみたいです。めぐみさんご自身が好きになった昭和歌謡の歌手の方などはいますか?

ひろせめぐみ

私はフランク永井さんとか石原裕次郎さんとか、魅惑の低音ボイスをお持ちの方が好きです。最近は、なかなか渋い声の方はいらっしゃらないので、ますます大人の色気を感じます。

かなえ氏

ムード歌謡、いいですよね。そういった方々の楽曲も、ともしびさんで歌われていて知ることになったのですか?

ひろせめぐみ

そうですね、最初はともしびの歌集からでした。ですが最近は「この曲が良いよ」とお客様やスタッフさんから教えてもらうこともあります。

私も「良い歌あれば教えてください」と日頃から言っているんですが、それが宝探しをしているような感覚です。教えあった楽曲をみんなで歌うのも歌声喫茶ともしびの大きな魅力のひとつです。
まさに、この昭和ポップス倶楽部もそんな場所のひとつになっていると思います。

歌声喫茶ともしびの歌集
ともしびさんが歌い継いできた数々の曲が入ってる歌集!
かなえ氏

嬉しいお言葉ありがとうございます・・・!昭和ポップス倶楽部に入ってみてなにか発見はありましたか?

ひろせめぐみ

ひとことでいえば、幅が広がりました。70〜80年代の昭和ポップスは、私が全然知らなかったジャンルでもあったのですが、昭和歌謡と全く違う音楽だとは思わないんです。「昭和」という共通の言語があるから、共感もします。やっぱりいちばん興味があるのが、「昭和」の歌のいったい何が若者を魅了しているのかが知りたいんです。私としてもなぜ惹かれたのか、不思議なんですけど。

かなえ氏

そうですよね!昭和の音楽が好きな私たちにとって永遠のテーマです。

歌声喫茶「ともしび」について

かなえ氏

めぐみさんは、もともとはお客さんとして、ともしびさんに通われていたとのことでした。そこからどのような経緯でスタッフとして参加されることになったのでしょうか?

ひろせめぐみ

ともしびの魅力にハマり、お客として通っていたら、あれよあれよと5年経過していました。似たような、ご高齢の方で集まってみんなで歌う会を主催していたりしたこともあって、ともしびの店長さんからピアニストが足りなくなったタイミングで声をかけていただきまいした。

店長とも顔見知りではあったのですが、まさかともしびで働けるとは全く思ってもいませんでした。

かなえ氏

そうだったんですね!
お客さんとして入るのと、仕事として入るのはまた違うところもあると思うんですが、お誘いを受けたときはどうお感じになりましたか?

ひろせめぐみ

まさかここで働けるとは思っていなかったので、嬉しさの方が大きかったです。一方、もうお客さんには戻れないのかなという気持ちもありましたが、いざ働いてみると場を作っている感覚はお客さんとスタッフで変わりはないと思いました。ともしびはお客様と一体となって楽しい空間を作っていくので立場以外の変化は感じませんでした。

かなえ氏

そうなのですね・・・!それにしても、偶然ピアニストの籍が空いて、めぐみさんがスタッフに招かれたのは、とても運命的ですね。ピアノはいつ頃から弾いていたのですか?

ひろせめぐみ

それが遅いんですよ。20歳くらいから弾いていました。

かなえ氏

えーーー!!そうなんですか。では、ともしびさんで働く少し前から、演奏するようになったんですね。

ひろせめぐみ

そうなんです。だからべートベンとか、ショパンとか難しい曲は全然弾いたことがないです。でも、ともしびでは技術をかなり鍛えられました(笑)

めぐみさんの「ともしび」への思い

かなえ氏

ともしびさんで働くうえで、気をつけてきたことはありますか?

ひろせめぐみ

誰ひとりとして寂しい思いをさせないことです。お客様への「目配り」と「耳くばり」を忘れずに「この人はもしかしたらこの曲ご存知なんじゃないかな」とか、お客様の反応をよく見て選曲もしています。
リクエスト順ではないですし、初めて足を運ばれる方がいれば、その方のリクエストに特にスポットを当てたりとか、そんな気配りもしています。

歌声喫茶では互いに関心を寄せあうことを大切にしています。普通の喫茶店は注文を受けて料理を提供するだけだけど、歌声喫茶は例えば、初めていらっしゃったお客様には「どこからいらっしゃったんですか?」と声をかけたり、お客様からリクエストをいただいて、それをみんなで歌う。その気持ちのやりとりをするのが他の飲食店とは違うところだと思います。

かなえ氏

私も以前、ともしびさんにお邪魔した際に、ほぼ全員と言って良いほどのスタッフさんがお声をかけてくださったんですよ。それがお見送りの最後まであって。コロナで人と人との繋がりを感じにくくなっていた時に久しぶりにその気配りと温かい人情に触れてとても嬉しかったです。
飲食店と言われて、「そっか!そうだった。」と思っちゃうくらい一つの居場所のようなお店だと感じました。

ひろせめぐみ

ありがとうございます!
それを受けて思うことがあるのですが、昭和の音楽ってそれに似ていて、テレビの前で大家族でひとつの音楽を楽しんでいたじゃないですか。ともしびも全く一緒だなと思っていて、“ひとつの歌をきっかけにいろんな年代の人が集まって歌う”それが将来のともしびの理想像なんですよね。

昭和ポップスには特にそんな力があると思っていて、昨今、昭和ポップスがリバイバルをされてたり、歌番組が増えていたりしていて改めて注目を集めていると思うんです。そういうのを見て改めて、「良い曲は時代を超えても、良い曲なんだ」って思わせてくれたんです。世代を越えて愛される曲があの時代にはたくさんあるし、昭和ポップスにはそんな力があると思っています。
ともしびの目指すところはそんな昭和ポップスを世代を越えて「この曲、良いよね!」って言えるような場所にしていくことだと思っています。

かなえ氏

ともしびさんがそのようなビジョンを掲げて邁進していこうとしていた矢先に、新型コロナウイルスが大流行してしまいましたが、今後の具体的な計画などはありますか?

ひろせめぐみ

そうですね。昭和の文化が最近注目されるようになって、いろんなところでそれを盛り上げようという活動が始まったじゃないですか。昭和ポップス倶楽部もそのひとつだと思うんですけど。
そういった人たちと連携をして、一緒にこの業界を盛り上げていきたいですね。ともしびはいったん休業になってしまうので、営業が再開するまでは、いろんな世代の方に今後ともしびを知ってもらうために、昭和ポップスの勉強もしたいと思います。
ともしびはこれから70年代〜90年代の歌のレパートリーを広げていきたいので、ぜひ知恵を貸してください!(笑)

かなえ氏

我々で良ければ何でもします・・・!
ともしびさんでも、平成生まれのお客様もいらっしゃると伺ったのですが、そういった方々のように「昭和」の音楽に魅了されてともしびさんに集っているのでしょうか?

ひろせめぐみ

2パターンあります。純粋にフォークソングやアイドルソングを好きだという人もいれば、ともしびの空間とそこにいる人が好きだという人もいます。後者の人はともしびに興味を持って来てくれて、通ううちにどんどん昭和歌謡を知っていく感じです。だから、人と歌って絶対に切り離せないんだろうなと思います。

もともとともしびのお客様としていらしてた若い方と若いスタッフが一緒になってつくった「ぱれっと」というサークルもあるんですよ!今年の1月に結成して、その矢先にコロナが流行してしまいました。
あらゆる世代の方に歌声喫茶の楽しみを届けたくて、現在はSNSなどを中心に活動しています。

ともしび若者サークル「ぱれっと」のみなさん
かなえ氏

なるほど。ともしびさんも平成、そして令和に後継していく、ひとつの分岐点を迎えられているのですね。平成生まれにも“みんなで共に歌う”喜びを伝えていきたいですね!

ひろせめぐみ

みんなでひとつの歌を歌うことはとても素敵なことだと思っています。
ご飯に例えると、それを一人で食べるとちょっと寂しいけど、みんなで食べると美味しいじゃないですか。それと一緒で、歌もみんなで歌えば楽しいし、味わいが増すんですよ。それは今の世の中にも必要なことだと思っていて、最近は核家族がほとんどで地域との関わりが減っていたり、昔のように地域のお祭りに強制的に参加させられることも減ったと聞くんです。
それに加えていろんなものがオンライン化して、人との心の距離感も広がってしまいましたよね。人間関係の「煩わしさ」から解放されたのかもしれないけど、気づいたら一人になりやすいのが現在の社会構造だと感じています。

かなえ氏

おっしゃる通りですね。カラオケではみんな歌うジャンルも違うから一体感は得られにくいし、かといって合唱では決められたパートを音程に忠実に歌うことが求められます。ですが、ともしびさんにお邪魔した時にお客さんと皆さんで一緒になって歌ってみて、「まさに求めている一体感や共感はここにある!」と心から思いました。また、コロナの影響もあって人と人との繋がりも希薄になりがちな今まさにともしびさんのビジョンは多くの人の心に響いていくのだと実感しました。

最後にめぐみさんがつたえたいこと

歌声喫茶ともしびで楽しそうに演奏する人たち
かなえ氏

同世代の昭和歌謡昭和ポップス好きに伝えたいことなどはありますか?

ひろせめぐみ

今はYouTubeも見れるし、SNSを通じて同世代の昭和ポップス好きとも繋がれます。昭和ポップスが好きということはもう恥ずかしいことでもないです。だからこそみんながつながりながら世界を広げていって、みんなで楽しんで行けたらなぁと思います。

かなえ氏

最後に今後の目標を聞かせてください!

ひろせめぐみ

歌声喫茶を通じて、世代やさまざまな違いの壁を超え、あらゆる人が心を通わせながら繋がって行けたらいいなぁと思っています。また、昭和ポップスにはその力があると思っているので、それを私自身もっと深めていきたいです。

今ともしびが目指しているのは、「ともに生きあう社会」です。「生きあう」という言葉はなかなか聞きなれない言葉かと思うんですが、例えば「励ましあう」とか「分かちあう」とか「助けあう」とかそういった言葉を総称して「生きあう」と定義していて、その「生きあう」は人と人との関係性の中で生まれてくる力だと思うんです。

よく日本の教育でも「『生きる力』を育みましょう。」と言われていますが、人は一人では生きていけません。だから、「生きる力」よりも「生きあう力」の方が大切なんじゃないかなと私たちは考えています。なので、ともしびはその「生きあう」という概念や価値観を広げていくために活動をしています。また、音楽や文化には「生きあう」ことの大切さを教えてくれる力があると思っています。

かなえ氏

そうですね。私たちが知らない、昭和ポップスが好きな若者はまだまだたくさんいて、昭和ポップスを同世代で楽しみたい思いをくすぶらせている若者もたくさんいると思うので、ともしびさんのような歌声喫茶は絶対に必要とされる場所になっていくのだと思います。

ひろせめぐみ

そうなんですよね。今は音楽をダウンロードして、イヤフォンで聴いて個人で楽しむのが当たり前ですが、ともしびは今まで一貫して生伴奏をしてきました。それには生伴奏ならではのテンポが速くなったり、ちょっとしたハプニングもありますけど、それも人の温かみを感じられます。それを丸ごと体感できるのがともしびの魅力です。

かなえ氏

人の温かみ。そうですね、それは交流をしないと絶対に感じることはできませんよね。平成生まれだけど昭和ポップスを好きな人がたくさんいることをわかったからこそ、次は共に「生きあう」ことが、求められていきますね。
ひろせさんのお言葉を聞いて私たちにとっても今後の活動のエネルギーとなりました!
めぐみさん、ありがとうございました!

ひろせめぐみ

こちらこそ、ありがとうございました!


今回は、めぐみさんがどれだけともしびという場所を大事に思っているかということ、また、どれだけ多くの人に愛されている場所かということをお話の中で感じることができました。

新型コロナウイルス感染症の流行により、もともと希薄な現代の人と人との関わり合いに拍車がかかっている時期だからこそ、本当は必要とされている場所であるはずのともしびさん。「当面休業」とのことで、いったいどれだけ悔しいことかわれわれには察するに余りある状況の中で、今できることを見つめて努力しようとするめぐみさんの姿は、とても輝かしく見えました。

ともしびさんでは、新型コロナウイルスが落ち着いた頃に新しいお店出せるように、これから準備期間に入ります。

ともしびさんの最新情報は、ぜひホームページをご覧になってみてくださいね!

店舗情報・お知らせ

▼ひろせめぐみさんホームページ
https://utagoemeg.com

▼歌声喫茶「ともしび」ホームページ
https://tomoshibi.co.jp

▼お店のない期間も、今行っている「歌声ライブ配信」を続けていきます。ぜひチェックを!
https://tomoshibi.co.jp/utagoe-cafe/live-distribution

インタビュー・文章協力:かなえ氏

平成生まれによる昭和ポップス倶楽部のコラムニストとして執筆中!
最近YouTubeデビューしました。

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